何が変わったのか

2025年6月1日、改正労働安全衛生規則612条の2が施行されました。それまで熱中症対策は通達に基づく指導が中心でしたが、この改正で罰則のある義務になりました。

英語圏の状況と比べると位置づけが分かりやすくなります。米国では連邦の熱中症の基準はまだ提案段階で、実際に執行できるのは一般的な義務規定です。英国とオーストラリアにも上限温度はありません。日本は、数値を伴う義務を法令に置いた数少ない例です。

対象になる作業

二つの条件。いずれも「または」で結ばれています。
条件内容
環境 暑さ指数(WBGT)28℃以上 または気温31℃以上の場所
時間 連続1時間以上 または 1日4時間を超えて行われることが見込まれる作業

「見込まれる」という点に注意が必要です。実際にその時間になったかどうかではなく、そうなる見込みで計画されている作業が対象です。したがって判断は作業前に行うものになります。

気温とWBGTのどちらかで足りるという構造は、指数計がない事業場でも判断できるようにするためのものです。気温31℃は、湿度が高ければ暑さ指数28℃よりも先に来ることがあります。

三つの義務

数値ではなく体制と手順が義務の中身です。

  1. 報告体制の整備。熱中症の自覚症状がある作業者、またはそのおそれがある作業者を見つけた人が、その旨を報告できる連絡先と方法を、事業場ごとにあらかじめ定めること。
  2. 手順の作成。作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じて医師の診察または処置を受けさせることなど、症状の悪化を防ぐために必要な措置の内容と実施手順を定めること。
  3. 周知。その体制と手順を、関係する作業者に知らせること。掲示、メール、文書の配布、口頭のいずれでもかまいませんが、周知されていることが要件です。

一つめが「見つけた人が報告できる体制」になっているのは重要です。倒れた本人が申告するのではなく、気づいた第三者が報告する経路を想定しています。実際の災害事例で、本人が最後まで言わないという形が繰り返し確認されているためです。

罰則

労働安全衛生法に基づき、行為者は6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金、法人にも50万円以下の罰金が科される可能性があります。作業停止等の命令の対象にもなり得ます。

罰則があるという事実そのものが、この改正の実質的な効果です。書面がないこと自体が問われる構造になりました。

作業強度ごとの WBGT 基準値

義務の線とは別に、身体作業強度の区分ごとに WBGT 基準値が示されています。こちらは「超える場合に環境改善や休憩の確保などの対策が必要になる目安」という位置づけです。

熱に順化している人の基準値。熱に順化していない人にはより低い値が定められており、正確な数値は厚生労働省の表を参照してください。
区分身体作業強度の例WBGT 基準値
区分0安静、楽な座位33℃
区分1軽い手作業、立位での軽作業30℃
区分2継続的な手および腕の作業、歩行を伴う作業28℃
区分3強度の腕および胴体の作業、荷の運搬26℃
区分4最大速度での激しい活動25℃

熱に順化していない人とは、作業する前の週に毎日暑さにさらされていなかった人です。新規に入った人、長期の休みや涼しい時期のあとに戻ってきた人、その年の最初の暑い時期を迎えた班全体が該当します。区分が重くなるほど、順化している人との差は大きくなります。

作業強度と休憩の目安は作業中止基準チェッカーで確認できます。

実務としてどう回すか

現場の一日の流れは屋外作業の熱中症対策と WBGTにまとめていますが、制度側から見た要点は三つです。

  1. 測る手段を決める。作業場所での実測が基本です。厚生労働省は JIS Z 8504 に適合した指数計を推奨しています。環境省の公表値や推定ツールは、実測が必要な日かどうかを知るための道具として使ってください。
  2. 書面を作る。義務の中身は体制と手順です。作ってあるかどうかが問われます。
  3. 周知したことを残す。掲示した、配った、朝礼で説明した。その事実が要件の一部です。

なお、この記述は一般的な情報であり法的な助言ではありません。実際の対応にあたっては、厚生労働省が公表している最新の資料を確認してください。